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現在からの視座 

塔尾 栞莉 Shori Tonoo

2016年度 卒業制作 「とけていく」

《とけていく》左.jpg
《とけていく》右.jpg

《とけていく》2016

 この作品は記憶をテーマに制作をしている。表現こそ変化しているが、現在も取り扱うテーマは同じである。

 

 記憶というものは時間と平行に流れ去っていくようにも思えるが、実際は時間に対して垂直に、何重もの層を成して保持されていく。それらを使用することで判断したり行動したりする。しかし、それらを意図して引き出そうとすると、断片的なものしか見つけることが出来ない。しかも下層にいけばいくほど、引き出すことが出来るものは少ない。その感覚に対して私は若干の恐怖を覚える。良くも悪くも、今の自分を構成しているものが無意識のうちになくなっていくような気がする。

 

 当時は20年前の記憶をもとに制作をしていた。私の制作は今も昔も変わらず、写真を使用する。私にとって写真は、頭の中に層を成した記憶を引き出す装置である。

 写真を見た時、断片的に覚えている部分とそうでない部分が頭の中でドロドロと混ざり合い、整理出来ないという体験をした。それを表現したいと思った。記憶と向き合って制作をしたのはこの時が初めてだったので、表現も絵の具の使い方も探り探りである。今見ると少し恥ずかしいような、むず痒いような気持ちになる。しかし、この作品を見ることで20年前の記憶だけでなく、制作当時の記憶も思い出すことが出来る。

 

 そう考えると、どこかないがしろにしがちな過去の作品だって、記憶を引き出す装置として機能してくれていることに気付く。記憶を引き出す装置は多ければ多いほうが良い。絵を描くこと、つまり、物質に留めておくことは、どんな記憶でも取りこぼしたくない我儘な私にとっては欠かせない行為なのである。

近年の作品

tonoo-Assemble.jpg

《Assemble》2019 , Oil on canvas , 60.6×72.7(cm)

tonoo-ハイド・アンド・シーク.jpg

《ハイド・アンド・シーク》2019, Oil on canvas, 130.3x162.0(cm)

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